その視界を彩るもの




――パンッ、‥‥界隈に乾いた音が木霊する。

じんじんと手が、指先が痺れを訴え掛けてくる。


片手は梢ちゃんの腕をしっかり握ったまま。

空いたほうの手で思い切り空を裂いたあたしは、勢いもそのままに梢ちゃんの頬を叩いた。



視線と顔を横へ逸らす梢ちゃんのその頬は、その行為を証明するかのように赤く染まる。

そして僅かに震える手でヒタリと自らの頬を押さえた彼女は、「信じられない」とでも言うかのようにおそるおそるあたしに向けて視線を戻した。



「‥‥ごめんね。梢ちゃん」


綺麗な顔を傷付けてごめん。

いきなりビンタなんてして本当にごめん。




尚もその部位を手で覆う梢ちゃんは尚も目を丸くして沈黙を貫く。

その表情を見て、もしかしたら嫌われたかもしれないと思った。

でも、それでもあの状態のまま彼女を放っておく訳にはいかなかった。

あたしたちがあの場に居たら間違いなくイサゾーの邪魔になる。


『相手も一人だったら別にアンタが居ても良かったのよ。でも、足音が複数に感じたから。 ……それでアンタが盾に取られたりしたらアタシも動けなくなって終りだった』



人質にはなっても、喧嘩の助けになれることなんて何もない。

だったら幾ら不利な状況だとしても、イサゾーに任せて身を隠したほうがずっと良い。

だって、梢ちゃんやあたしが居ないほうがアイツだって気兼ね無しに暴れられるだろうから。




‥‥イサゾーが族のことを隠すつもりなら、あたしは今この瞬間も梢ちゃんに白を切るしかないだろう。



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