その視界を彩るもの
「叩いてごめん。詳しいことは何も言えない。イサゾーが言ってないなら、あたしからは絶対に言えない」
「‥‥何を言って‥‥」
「ただ一つだけ言えることがあるとすれば、」
やんわりと梢ちゃんが頬を覆うその手に今し方叩いたばかりの手を重ねる‥‥そっと。
でもやっぱりその瞬間に大きく肩を震わせた彼女を見て、余計な傷を負わせてしまったんだと覚った。
ごめん、梢ちゃん。叩いたりなんてしてごめん。
ただその手を振り払わないで居てくれることだけが、唯一の救いだった。
「‥‥イサゾーは心も身体も強いんだよ、梢ちゃん。あたしはもう何度もアイツに救われた。あたしたちがあの場に居てできることなんて何も無かった、そうでしょ?」
「‥‥何もできないなんて、そんな‥‥」
「じゃあ教えて。あの場に今戻ったとして、梢ちゃんに何ができるの?」
「‥‥それは」
「何もできない。梢ちゃんは、‥‥あたしたちは。イサゾーの邪魔にしかならない」
強く言いすぎな気もするけれど仕方がない。
だってこうでもしなきゃ、この手を振り払ってきっと梢ちゃんは行ってしまう。
「それよりだったら、今この瞬間にウチらができることを考えようよ」
お願いだよ、梢ちゃん。
その思いを伝えるように繋いだ手にぎゅっと力を込める。
少し待つと、そのまま持ち上がった黒真珠の瞳に見つめられた。
そして確かに頷いた彼女を見てようやく心の底から安堵の息を吐くことができた。