その視界を彩るもの
「交番とかに行ってみますか?」
大分落ち着きを取り戻してくれたらしい梢ちゃんの提案に少し思案を巡らせてみる。
‥‥梢ちゃんはイサゾーが暴行を受ける側だと疑ってないみたいだけれど。
アイツ相当強いみたいだし、逆のパターンの可能性だってきっと大きいと思う。
あたしらが警察連れて戻ったとして、あの集団をイサゾーがボコボコにしてたら逆にヤバくない?
被疑者として連行されちゃったらどうしよう。
だから正直気が引けたんだけど、梢ちゃんはもうすっかりその気らしく最寄りの交番に向かってずんずん歩を進めていて。
慌ててその背を追いながらも必死で思考を組み立てる。
‥‥ウチらが証人になってイサゾーは正当防衛だって訴え続ければ何とかなる、か?
もやもやと浮上する考えを纏めていたその瞬間のこと。
背後から僅かに聞こえた靴音にヒヤリと体温が低下する。
目の前の梢ちゃんの様子は変わらない。きっと、気付いたのはあたしだけ。
"………勘違いだといいんだけど"
"うん"
"さっき誰かに付けられてたみたいなのよ。……正体までは、わかんなかったけど"
あの日から頭の隅にあったその出来事。
決め付けは良くないとは思うけれど、何しろ辺りはヒト気の無い住宅街。
悠長に見極めている時間はぶっちゃけ無いに等しい。そう判断した。