その視界を彩るもの
何がなんだか解らなかった。
細い道をただひたすらに走り抜けて直ぐに広がった光景を見て、立ち止まらざるを得なかった。
真後ろで梢ちゃんの細い肩がカタカタと震えているのが分かって。
ただ本能的に彼女をぐいっと押し込める。
「あたし」を盾にして彼女の存在が【ヤツラ】に伝わらなければ良い。
それだけを思って、‥‥寧ろ何も考えちゃいなかった。
だってそんな行動を取っていても当のあたしだってカタカタと震えが止まらない。
ブオンブオン、大仰なバイクの音が幾重にも重なって鼓膜の最奥をつんざいていく。
「―――‥シノサキウイは、どっちかな?」
ヒタリと怪しげな足音を伴って目の前に現れた男を睨み上げる。
その言葉に梢ちゃんの存在も露見してしまっていると知って内心ヒヤリと冷や汗を流す。
でも良かった。
コイツラが狙っているのはどうやらあたし一人らしい。
気味の悪い笑みでそのツラを飾った男がニタリと口角上げて身を屈めてくる。
必然的に近付いた距離。
不規則に暴れまわる心臓。
その男のツラがハッキリと目視できるようになったその瞬間、背後で梢ちゃんが「ヒュウッ」と浅く呼吸したことが分かった。
そしてあたしの服をギュッと強く握り締める。
ぎゅ、ぎゅっ、‥‥強く強く、なにか強烈なメッセージを伝えてくるかのように。
「シノサキウイは、あたしだ」
力強くそう口にしたあたしをニタリ、見下ろしたソイツは喉奥から沸き起こる笑みを口許で持て余す。
その背後でバイクのエンジンを吹かせる仲間らしい男たちがその行為を助長するかのように下卑た笑い声を界隈一杯に響かせる。
ぎゅっ、ぎゅっ、‥‥梢ちゃんが更に強くあたしの服を引っ張った。