その視界を彩るもの




「おかしくね? シノサキウイは、黒髪なんだろ?」


そう言いながらもその男が取り出した雑誌の中身がパラリ、見開かれる。

そのページに写るあの日のイサゾーとあたし。

厳密に言うと黒じゃないんだけど、遠目から見ればそう言われても仕方ないのかもしれない。





「じゃあやっぱ、その後ろの女がシノサキウイなんだ?」




その言葉と共にその男が指で示したのは言わずもがな梢ちゃん。

途端にビクリと肩を震わせた彼女は何も言葉を発せずに居るみたいで、ただ小さく小さく縮こまる。

あたしの服を掴むその手が、尋常じゃないくらいに震えを訴えてきていた。




「‥‥違う」



低い声を出して相手の男を威嚇する。

尻目に捉えた見覚えのある顔に、これまでの逃走劇の真相を垣間見た。

左手は強く梢ちゃんの手を握ったまま。

空いたほうの右手であたしは自分の鞄を泳ぎまわり、目的のモノを探し当てて勢いよくソレを取り出す。








「―――正真正銘あたしがシノサキウイだ!!わかったらとっとと失せな!!」







叫号をとばすのと同時に梢ちゃんを強く背後に突き飛ばす。

その方向には【アイツ】が居るからきっと助かる。大丈夫だ。

だけど地に着くその瞬間にもしかしたら足を擦り剥くかもしれない。でもそれは、許して欲しいな。


そして強く強く掲げた右手には、誰の目から見てもあたしが「シノサキウイ」だって解るように高校の学生証が握られていた。

その写真と名前を目にした気味の悪い男は、驚いたように目を大きく見開く。



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