その視界を彩るもの
ぽつりと零された台詞はきっと、独白に分類されるものだったのだろう。
しかしながら、あたしの耳に到達してしまった。これは黙っている訳にはいかない。
「その台詞そっくりそのまま返すよ」
『はぁ?』
ぴょん、と。性急にも先を急ぐおねえイケメンの腕を引っ張りながら、覗き込むようにしてその表情を窺った。
尚も怪訝に歪められたそれはきっと、あたしのことを快く思っていない証拠で。
……あーあ、ちょっとだけ傷付くなあ。
「ほんと、なに考えてるかわかんない」
『……別に理解を求めてるワケじゃないわ』
「まあそれは、わかるんだけど」
掴んでいたブレザーから腕を離し、そのままおねえイケメンを追い越したあたしは奴の正面から回り込む。
するとピタリ、と。立ち止まったそいつは尚も怪訝な表情をほどくことはしない。
お気に入りのピンクベージュなカーディガン。
だぼっとスカートまでもを覆うそのポケットに腕を突っ込んだあたしは、ペッタンコな鞄が腕からずり落ちることすら尻目に懸けて。
「昨日とエライ違いじゃない?少なくとも昨日は、そんなにあたしのこと嫌がってる風じゃなかったと思うけど」
『そりゃアンタ、もう会わないと思ったからに決まってるじゃない』
「そうかそうか」
『………、……聞いてないでしょ』