その視界を彩るもの




‥‥俺にとっての"天龍"は唯一と言っても過言ではないくらいの最優先事項。

それを護れるならこの女をコワシテやることなんか造作も無い。



「別に黙りこくりたいならそれで良いけど、もし言ったら解ってるよね?」

「‥‥」

「篠崎はすでに帰宅済み。柳に会ったら絶対にそう言え。ただ、暫く連絡は付かないだろうって適当に誤魔化しておくこと」

「‥‥」

「‥‥マジでその耳ちゃんと機能してんの?」



余りに反応が無いから思わずそう口にしてしまった。

‥‥ま、いいか別に。これだけ言えばコイツも柳に言うことは無いだろうし。


暫く等閑にしていたスマホから薄らとナツキの声が聞こえ、慌ててそれを耳に宛がい直す。





「ごめんナツキ。ちょっと取り込んでた」

"‥‥もっと早く気付けよ。こっちも暇じゃない"

「わかってるって、そうカリカリしないでよ。らしくないな」


普段割と温厚なナツキがここまで苛れているのも珍しい。

わざとらしく驚いたふうに言葉をおとせば、一気に脱力したらしいナツキが電話口向こうで大きく溜め息をこぼす。

そして間を置かずに続いた言葉に人知れず俺の口角は持ち上がった。





"さっき勇蔵をそっちに向かわせた。おそらく後数分もすれば着く"





この件に関して柳に首を突っ込まれたらもう終わりだからね。

取り敢えずこの邪魔な女連れて、帰ってもらうしかない。



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