その視界を彩るもの
- 梢side -
目の前に居る幼顔の男に辟易を通り越して、もはや嫌悪すら抱いていた。
「‥‥そろそろ柳来るらしいから。ちゃんと演技しといてよ」
何の色もその表情に浮かべないでケロリとそんなことを言ってしまう男にじわじわと苛立ちが募る。
‥‥私が「男」嫌いになった原因だって知っているようだし。
なんで知りもしない人間にそんなことを言われなくちゃならないんだろう。
それに、この人は初さんの知り合いなんじゃないの?
知り合いなのに彼女のことは心配じゃないの!?
‥‥確かに私が一番の足手まといになっていたことは事実だ。
だからもし、あの現場に私が居なければこの男と画策して初さんもきっと逃げられた。
‥‥自己嫌悪はここ数分でもう嫌になるほど経験した。
何か文句だって言いたいのに、相手が「男」だと意識すればするほど言葉が喉奥に貼り付いて出てきてくれない。
最近では症状とも無縁だったから、私も高を括っていたんだと思う。
でもさっき見たあの男たちの下卑た笑い声が脳裏から消え去ってくれない。
私は何年経ってもあの日を思い出す。
未だに信じられないほど寝汗を掻いて朝を迎えたりもする。
‥‥それなのに、あの男たちは「私」を見ても誰だか解っていないようだった。
これ以上の屈辱って無いと思う。
「された」側の私だけがずっとずっと悪夢から抜けられなくて、【アイツラ】はこっちの存在なんてすでに抹消済みで。
望まない再会を果たしたあの瞬間、自分の身体なのに硬直して身動き一つできなかった。