その視界を彩るもの




‥‥そんな奴らに初さんが連れ去られてしまった。

その現場を突き付けられたのに無力な私はなんの行動も取ることができなかった。



「‥‥」



それなのに、この「万里」って男は、私にまた逃げろって言うの?






「あ、来た」

「‥‥」

「柳ー!こっち!早く来てよ!」

『テメェ万里!こっちは散々雑魚相手にしたすぐ後だってのに――「アンタの妹邪魔だから早く連れて帰っちゃって」


スッパリとそう言い捨てた「万里」って奴が私を顎で指し示す。

なんだか口調の可笑しかった勇兄は慌てたように目を泳がせて『こ、梢‥‥』小さく小さく、私の名を口にした。




‥‥きっと普段の私だったら、そんな「男」みたいな口調で喋る勇兄とは会話すらできなかったと思う。

恐くて怖くて、「やめて」って泣いて嘆願していたと思う。

でも今この瞬間の私は、それに勝る大きな決意をしていたから平気だった。




「勇兄」





睨むようにジっと射抜いてくる「万里」って奴の視線を背中にひしひしと感じながら、背の高い勇兄を強い瞳で見上げる。

そんな私の姿が意外だったようで勇兄は困ったように眉尻を下げていた。


‥‥瞼を閉じれば今し方連れ去られてしまった初さんの悲痛な姿が痛いほど焼き付いて浮上する。

今ここで逃げてちゃ駄目だ。

初さんは勇兄のことが好きなんだから、絶対に勇兄の助けを求めて待っている筈。



いま私がここで嘘を吐いたら、「真実」を知らない勇兄が初さんを助けに行くことなんてできない。

‥‥そうでしょ?



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