その視界を彩るもの
聞いてるに決まってるじゃん。
本人は気付いてないのかもしれないけれど、それって面と向かって言われると結構キツイのにさぁ。
段々と茜色に染まり始めた空を見上げながら、はぁと詰まりきった息を吐き出した。
結局興味を持ったのは、あたしだけだったってコトか。
『ほら、なにボサッとしてんの。行くんでしょ?あたしんち』
「行っていいんでしょ?」
『しょうがないじゃない。他に化粧できる場所なんて無いんだから』
「じゃあ行くー」
中性的におとされる言葉の数々。
あたしに背を向けて歩く姿は男子高校生そのもの。でもそれについて、今のあたしは深く追究することは出来ない。
本当は今日その姿を見たとき、これ以上ないくらい驚いたんだ。
まさか同じ高校生だとは思わなかったから。まあ、学校は勿論違うみたいだけれど。
「待ってよー」
『早く来ないと置いていくから』
「まじドSじゃん、それ」
昨夜お洒落な革靴を履いていた足は、今日は焦げ茶色のローファーにおさまっていて。
ハニーブラウンの髪を風に掬われながら気だるげに歩を進めるその姿は、ちょっとイケてる高校生そのもの。
だけれどその口からおとされる中性的なおねえ言葉は、紛れも無くコイツ自身のものだ。
同じくハニーブラウンのロングを揺らしながらその背に続くあたしは、相手には煙たがられていても。
どうしてもおねえイケメンっていう人間が気になって仕方なかった。
たとえ、奴があたしとの再会を望んでいなかったとしても。