その視界を彩るもの
あの日のことは余りよく覚えていない。
たぶんあたし自身強く忘れたいって、防衛の線を張っているからだと思う。
イサゾーが助けに来てくれたときは心の底から安堵したけれど、あんな姿を晒しちゃうなら来てくれなくても良かったのにって相反する気持ちも芽生えた。
「見ないで」って叫びたかった。
でも口が塞がっていてそれは叶わなかった。
好きな人にあんな姿を見られるなら、死んだほうがマシだって心底思った。
"―――‥殺して"
だからあの日にあたしがイサゾーに嘆願するために口にしたその言葉は、決して偽りのものなんかじゃなかった。
あの日、あのとき、あの瞬間。
イサゾーに醜い姿を見られたあの瞬間。
あたしは心の底から自分の存在を抹消してしまいたかった。