その視界を彩るもの




かの柳はと言うと、ナツキから向けられた言葉でやっと本来の自分を取り戻したらしく。

慌てて隅で忘れられたように置き去りにされる篠崎の許に向かって行った。


だけれど、遠目から見ても判るほど篠崎の目はすでに死んでいた。



『ウイッ!!』

「‥‥して」

『、え?』



聞き取れなかった柳がその言葉をもう一度聞こうとしている。

距離を隔てて口の動きだけで察していた俺は既にその叫びに理解が及んだ。


「代わりに殺す」――‥その言葉を実行するかのように暴れ狂うナツキの許へと走り出す。

篠崎はあんな目とは一生無縁だと思った。

だけど実際そうでもないらしい。






「―――‥あたしを殺して」







女ってやっぱ、‥‥脆いな。



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