その視界を彩るもの
‥‥あれから一体どれほどの日数を跨いだんだろう。
気付けばもう冬は過ぎ、春が顔を出し始めていた。
イサゾーの顔を見なくなって数週間‥‥いや数ヶ月?
カレンダーすらにも目を向けなかったあたしは、長い引きこもりの期間を経てようやく外に出ようと決心していた。
その決心をしたのは3日前のこと。
だから正直こんなにも天気が荒れるなんて思いもしなくて、自分の不運さにほとほと呆れた。
「‥‥初」
「おかあさん」
階段の途中でバッタリと出くわした母親も思いの外やつれた顔をしていて。
‥‥あたしがそんな顔させてるんだよね。
ごめん、お母さん。
何も切っ掛けが無かった訳じゃない。
そろそろ「危ない」って学校から電話が掛かってきたから。
これ以上欠席したら間違いなく留年になるって、焦った口調で担任が告げたらしいから。
だから今日から登校しようと思った。
できるかは解らないけれど。
ずっと長い間家は疎か部屋からも出ていなかったあたしがマトモに女子高生できるのか、なんて疑問ではあるけれど。
「今日はもう柳くん来たから。気兼ねせずいってらっしゃい」
そう笑む母親にコクリと頷いてそのまま洗面所へと向かう。
‥‥まだイサゾーと顔を合わせる勇気は無かった。
だってあんな現場を見られて。
好きなのに。‥‥好きじゃない男とそんなふうになってた現場を見られて。
穢れた口からは暫く食事だって喉を通らなくて、何度も倒れて点滴してもらったりもした。