その視界を彩るもの
一度も顔を出さないあたしなんかのところに、ほぼ毎日と言ってもいいくらい足繁く通ってくれるイサゾーの気持ちが解らなかった。
‥‥同情とかなら、いらないんだけど。
だってあんなところを見てあたしを嫌わない筈ないじゃん。
絶対に少なからず思った筈じゃん、どんなにイサゾーが優しくても。
「キタナイ」って、思った筈じゃん。
「車出すわよ?外‥‥雨風酷いし」
「いいよ。それじゃ意味ないから自分で行く」
「初」
心配そうにあたしを見つめる母親には本当のことは言っていない。
だからいきなり引きこもるあたしと、いきなり訪問するようになったイサゾーに対してどんなふうに接したら良いか判らなかったと思うのに。
‥‥何も聞かずにこうして「あたし」を見てくれるから、改めて偉大さを実感した。
「女の本能」とかで勘付いているのかもしれないけれど。
それか或いはイサゾーが何かを話したのかもしれないけれど。
「ありがと、行ってきます」
その対応全てに形容し難い温かな感情を覚えて、ぎこちないながらも笑んでそう口にすることができた。
玄関の重い扉を開いて外へと道を繋ぐ。