その視界を彩るもの
「イサゾー、濡れちゃってるよ」
心の中である大きな決心をしたあたしは、背の高いイサゾーに傘を垂らして傾けてやる。
そんなあたしの行動を、あたしの腕をしっかりと掴んだままイサゾーは脳裏に焼き付けるようにジっと見つめる。
あんなに学校のクラスメイトは「駄目」だったのに。
イサゾー相手ならすんなりと言葉だって出てくるし、こうして触れられても嫌悪の欠片すら抱かない。
クスクスと笑んで相合傘にするあたしを笑いもせずに見つめるイサゾー。
その表情は驚いているようにも見えたし、哀しんでいるようにも見えた。
‥‥悲しまないでイサゾー。
その顔だけは見たくない。
いつでも優しさを与えてくれるイサゾーが哀しむ表情なんて、見たくないよ。
「イサゾー、すきだよ」
だから笑ってお別れしよう?
こんなにも互いを傷つける感情なら、あたしは大事にしちゃいけない。
ここで捨てる覚悟をするから。