その視界を彩るもの
- unknown side -
時刻は日没から暫く経った頃。
慣れた手付きで眼前に聳える扉を押し開いた彼女は、艶やかな身形で周囲を魅了しながら賑やかなクラブで歩を進めていく。
そして辿り着いた目的の場所は―――中央に設置された客人の集うカウンター席。
「こんばんは」
「あら?暫く来なかったんじゃねぇ?ひさびさー」
「‥‥色々あんのよ。いつものお願い」
普段とはテイストの違う服装。艶やかな香水。一際目を引く甚三紅のルージュ。
それらの魅せ方を十二分に理解する彼女がひとたび微笑みを浮かべれば、頬を染めない男なんて居ない。
‥‥そう、居ない筈だったのだ。にも関わらずいきなり現れた。
そして少しの猶予も残さずに彼女が想いを寄せる人間を掻っ攫っていった。まるで風のように。
「で、なに?また狙ってる女オトすために色々細工しに来たん?」
「‥‥気付かれてたなんて知らなかった」
「俺のこと見くびってもらっちゃ困るぜー、御得意さん」
ニヤニヤといわくあり気に笑んで頬杖を突き、彼女をジっと見据えるその男。
余りの居心地悪さに視線を逸らした女はぼそりと「早くカクテル注ぎなさいよ」と一言。
その言葉を待っていたのか、いつの間にやら準備していたらしいそれを目の前でこれ見よがしに注ぐカウンター向こうの男を一瞥した彼女は。
幾ら反論しようとも意味を成さないと覚ったのか、軽く溜め息をこぼす。