その視界を彩るもの
/痛みさえも愛おしい
季節はまた巡ってゆく。
抗うことなくその波に身を投じていれば、ふと振り返った瞬間流れ去った時間のスピードに度々目を見張ってしまう。
冷たさと鋭さを孕んだ風がちくりと肌を刺してくる。
アイツとのやり取りを記録している端末を起動させてみると、こうして今を過ごしているのが夢なんじゃないかって時どき少し恐くなる。
【今日何時に終わる?】
【いつもよりちょっと早いかも。先に帰ってるね】
【あ、待って】
【スタンプ】
【こっちも早めに終わるっぽいから、駅まで迎えに行く。待ってて】
表示されたメッセージに【はあい】と返し、画面の表示をOFFにする。
そのままゆるく歩を進める先は、もう通い慣れも度を越してしまって見ても特になにも思わない風景を織り成す場所で。
でも考えてみれば、どの道だってどの場所だって。
イサゾーと過ごした思い出がちゃんと宿っている。意識して思い起こせばそれはキラキラと姿を見せてくれる。
イサゾーとあたしは高校を卒業し、それぞれの道に進んだ。
あたしは美容の専門学校。
アイツは公立の四年制大学。
既にあれから三年が過ぎようとしていて、また冬を迎えている。
21歳になったあたしたち。付き合い始めてから、四年の歳月を共に過ごしてきた。
お互い付き合いもあってそれぞれ別に飲みに行ったりもするけれど、根本的なところは何も変わらない。
幾ら目の届かない場所にアイツが居ても、それを疑ったことなんて一度もない。
だってイサゾーは「信じていれば相手も自分を信じてくれる」‥‥いつだってそう思わせてくれる優しい奴だから。