その視界を彩るもの




次第に視界に映り込んでくるのは指定された駅の改札口。

首に巻いたマフラーに顎先を埋めながらヒールの高いブーツで歩を進めていく。

黒っぽいそのマフラーは、元を辿ればイサゾーのものだったから。ふと鼻を利かせれば擽るその香りに酷く落ち着いた。


出逢ったばかりの頃はお揃いのハニーブラウンな髪色だったあたしたち。

高3にもなり受験期が差し迫ってからはイサゾーの髪は黒くなった。それを度々あたしは揶揄して。

専門に入って更に明るくなったあたしの髪と、落ち着きを持続させるように深いブラウンに留めていたイサゾー。


――‥また二人してお揃いのハニーブラウンに染めたのは、つい最近のことだった。





「イサゾー」



視線で捉えた奴の名前を口にする。

その瞬間を待ち侘びたかのように振り返ってくるイサゾー。

『おつかれ』‥‥そう言葉をおとして柔く笑んだイサゾーは徐に手を伸ばすと、あたしの髪をひと撫でする。


目を閉じてその感触を味わった。




『帰りましょうか』

「うん」





そして、どちらからともなく絡めた指先をぎゅっと握り締めて頷いた。

幾重に連なる歳月を重ねても「王子様」スマイルは健在だ。

活動の幅こそ狭まったけれど、イサゾーは今も読モを続けている。

梢ちゃんの「もういいよ勇兄」‥‥その言葉が決定打になってオネエ口調とお別れしたのは、いつのことだっただろう?


とは言え長年親しんだ名残もあるのか、ふとした瞬間に飛び出す言葉は相変わらずその口調だったりもするけれど。

そんな切っ掛けを与えてくれた梢ちゃんももう二十歳を迎えた立派な大人。

自分のことになると余り気付かなかったりもするけれど、梢ちゃんを見ていると月日が経つのは早いって改めて実感したりする。



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