その視界を彩るもの






瞳をごうごうと滾らせてあたしを追い詰め始めるおねえイケメン相手に、内心だらだらと流れ落ちていく冷や汗の量はハンパない。

口許を引き攣らせて脚を後退させるあたしと、無駄に長い脚でこちらを仕留めにかかるおねえイケメン。


こ、これは何とかしなければ……!

身の危険を感じたあたしは思わず叫ぶようにして、こんなことを口にした。




「あ、あたし初《うい》って言うんだ!篠崎初!」

『………はぁ?』

「おね、……アンタは何だっけ、トーク画面に出てたよね」






四回くらい折ったプリーツツカートのポケットに無理やり忍ばせていたスマホを取りだすべく、奮闘するあたしだったけれど。



『勇蔵《いさぞう》よ。柳勇蔵』







当の本人であるおねえイケメンがそう口にしたことで、その必要は無くなってしまった。

沈黙に支配された空間の中で、呆然と奴を見上げるあたし。と、そんなあたしを『しょうがない』とでも言いたげな表情で見下ろすおねえイケメン。






「………ヘンな名前だね」

『アンタその立派なツケマ今すぐ剥ぎ取ってあげましょうか』

「ご、ごめんなさーい!」









胸の前で両手をぶんぶん振り、敵意が無いことを告げるものの。

尚もギラギラと捕食者さながらの鋭い瞳であたしを見下ろす奴は恐すぎて笑えない。


ギャルにとってツケマは死ぬほど大事なものだって言うのに。

へらへらと愛想笑い全開で見上げるあたしの、何と滑稽なことか。








< 30 / 309 >

この作品をシェア

pagetop