その視界を彩るもの
飛び出した言葉のそれが余りに切ない声色で自分でも驚いた。
あたし自身そう感じていたんだから、背中を向けるイサゾーの受け取り方はひとしおだったに違いない。
慌てて振り返ってきた長身のそいつ。
成人した今でも甘いマスクは健在のそいつ。
整った眉をへたりと下げてコッチを見つめるその瞳に映る情けないあたしの姿。
「‥‥ごめんね。無理させてたよね」
あんな出来事があったから。
あんな現場を見せてしまったから。
口では、表面的には『大丈夫』と繰り返してきたイサゾーだって、きっとずっと辛かったのに。
こんなにも気を遣わせてしまっていたのが今、浮き彫りになって。
「エロ本とかAVそんなに溜めこんじゃうほど欲求不満になってたなんて、知らなかった」
『ちょッ、!?』
ド直球に飛び出したあたしの言葉に目玉が飛び出す勢いで驚きを表すイサゾー。
だってその押し入れに詰め込んだのって、ぜーんぶその類でしょ。
だからケロリと口にしたあたしとは対照的に顔全体を赤く染め上げたイサゾーは『ストレートすぎ‥‥』ぽつり、呟きをおとして顔全体を手で覆う。
「気にし過ぎなんだよ。別に良かったのに、押し倒してくれても」
『‥‥だってアンタ、そんなの無理に決まってるじゃない』
「あ。口調戻ってるー」
『‥‥。 嫌われたくなかったんだよ』
プイッと外方を向いて本音を小さく音に乗せるイサゾー。その横顔をジっと見つめる。
嫌われたら‥‥とか。本当にそう思ってる?
だとしたら、イサゾーは大馬鹿野郎だなあ。
「嫌うわけないじゃん。‥‥あの雨の日にキスしてくれたときから、イサゾーのために生きようって決めたんだから」
少しだけ背伸びをして、その下唇を啄んだ。