その視界を彩るもの
「ゆ、許してよイサゾー」
早速教えてもらったばかりの名前を呼んで、へらりと破顔してみせる。
そんなあたしを暫し無表情で見下ろしたおねえイケメンこと、イサゾーはと言うと。
『………しょうがないわね』
「死ぬかと思った」
『ハァン?』
「ヒイ……!」
ぐるりと振り返ったイサゾーは、部屋の隅にある何やら大きいボックスの元へと足早に向かい始めた。
何だろうあのデカい箱。
ま、まさかあたしを仕留める武器が入っているのだろうか!恐!
「イサゾー待って、早まらないでよ」
『はぁ? なに言ってるのよアンタ』
「なにって、その武器であたしを葬るつもりなんでしょ?」
『………』
なに、その、残念なものでも見るような目。
げんなりと落とされた溜め息にムッと顔を顰めていれば、直ぐに可笑しげに破顔一笑してみせたイサゾーに視線を奪われる。
『ほんとバカ。 せっかく昨日買ったシャドウ持っていってあげようと思ったのに』
化粧してみたいんでしょ?なんて。
クスクスと微笑をこぼすその姿から視線が逸らせないあたしは、一体何なんだろう。
言わないけど、死んでも言わないけれど。
本当は昨日帰宅してから直ぐ通販で申し込んだから、たぶん近いうちに家に届くんだよ。その、新作アイシャドウ。
「…………」
でも、何故だかそれを口にしてしまうのは勿体ない気がして。
イサゾーの持つ他でもないそのシャドウが、信じられないくらい特別なものに思えてきてしまったから。
「うん。やる」
狭い部屋の隅でそれを持つイサゾーの元へ、顔を綻ばせて向かっていったのだった。