その視界を彩るもの






―――――――――――…



『ウイ』

「なに、イサゾー」

『熱中してるとこ悪いんだけど』

「なに」

『………アンタ聞いてないでしょ』






真横から何度も声を掛けてくるイサゾー。

聞いてない訳じゃないけど、正直今はキリが悪い。鏡に映り込む自らの顔に納得のいくまで化粧を施していたあたしは、雑誌へと向けていた視線を何度も拾ってはおとしての繰り返し。





「聞いてるけど、ちょっと待って」







大好きなメイクにどっぷり集中してしまっていたあたしは、まるで外の様子に気付くことは無くて。

既に夜の帳が下りたことにずっと前から気付いていたイサゾーは、何度も声を掛けるものの当のあたしが聞く耳を持たないのだから仕方がない。



ふうと細く溜め息を吐き出したイサゾーは、あたしの横に乱雑に開かれたギャル雑誌を「パタン」と閉じてしまう。

さすがにそれには気付いたあたしが、慌てて視線を向けるものの。








『その集中力には感服するわ。だけど、そろそろ支度しないとアンタ家に帰れなくなるわよ』

「………マジか」

『でも本当凄いわね。メイク始めて何時間よ』

「まあ、唯一の趣味だからね」








ニヤリと口角上げてそう零すけれど、呆れ顔で此方を見遣るイサゾーの奥に視線を添わせたあたしは思わず目をしばたかせる。

首を傾げるようにしてその方向を凝視するあたしを見て疑問に思ったらしいイサゾーが、同様に振り返ると。







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