その視界を彩るもの
『なによ、なんか変わったモノでもある?』
「あれあれ」
『……、…どれよ』
「あの、さっきイサゾーが弄ってたボックスの中身」
そう言いつつあたしが指差したのは、先刻「凶器だ」とまで思ってしまった大きなボックスに他ならない。
半分ほど開けられたその中身からは、見えそうで見えないナニカがちらりと覗いていて。
眉根をぎゅっと寄せつつ、その正体を見破ろうと半ば躍起になっていたのだ。
だけれど、そんなあたしの行動に反して『なんだ、そんなこと』とゆるく微笑を浮かべたイサゾー。
腰を上げた奴に向かって必然的に視線は飛んでいき、イサゾーがボックスへと近付くにつれて比例するようにあたしの関心も濃くなっていく。
『これのことね』
そして軽々とその箱を抱えたイサゾーがこちらに向かってくるのを認め、小さいテーブルを占拠してしまわないように慌てて座をずらした。
ワンテンポのちに机上に置かれた、真っ黒なエナメル質のボックス。
こうして眼前で見つめてみると、自ずとその中身の正体は解ってしまった。なんだ、そういうこと。
「イサゾー、化粧品集めてるの?」
五畳足らずの一室。意図せずとも至近距離で捉えることのできる顔面を射抜くように言葉をおとせば、一瞬だけ表情を違えたイサゾーに嫌でも気付く。
僅かな変化。だって直ぐにその表情は引っ込められて、今ではすっかり見慣れたイサゾーの"普段"のそれに戻ってしまっていた。
『………うん、まあね』
だけれど、あたしにとっては直前に見せた寂寞に満ちたカオが印象的すぎて。