その視界を彩るもの
/なにこれ超臭いんだけど
10:50 既読 "今日の帰りイサゾーんち行ってもいい?"
"はぁ?なんでよ" 10:55
10:57 既読 "遊びに行きたい"
"アンタのことだから駄目って言っても来るんでしょ、どうせ" 11:00
「ういー」
「なに」
「ポッキー1本ちょーだい」
「いいよ」
まだ午前中ということもあり、だるさ全開で喧騒を広げる教室の窓際最後列付近にて。
日頃と全く変わらない光景に身を置くのはあたしも同じだったけれど、ひとつ楽しみが出来たのもまた事実で。
「初なに、最近楽しそうじゃない?」
「オトコできたとかー」
「……まっさか」
瞳におさまるカラコン越しに見えるのは、人気のキャラクターやら沢山のストラップで装飾されたスマホを手に持つ彼女たち。
案外ちゃんと観察してるのか、なんて。意外な一面に少しばかり瞳を細めていれば、不意に後続した台詞に口を噤まざるを得なくなる。
「この間の合コン初のせいで駄目になったんだから、初だけ良い思いしてるのって何かズルくない?」
「………、アカネ」
今日も今日とてぐるぐるに巻かれたロングの明るい長髪。アップにまとめられたそれから漂うのは、幾重にも混ぜ込まれたコロンの香り。
ヘーゼルに縁取られたカラコンであたしを見据えるアカネは、ふと妖しく微笑むと。
「男できたんなら紹介してよ、初」
普通じゃないと思ったのは、あたしの錯覚だろうか。「だから男なんかできてないって」と返すのにワンテンポのズレが生じてしまったのは、杞憂によるものだと願うばかりで。