その視界を彩るもの
――――放課後、とある駅の改札にて
「イサゾー」
『ちょっとアンタ!どんだけ時間掛かって、って………何コレ』
「お土産」
怪訝さを前面に押し出したような顔つきで、ジロリとあたしを見下ろすイサゾー。
先日と同じく制服で佇んでいた奴の眼前に突きつけるように差し出したのは、小さな箱。
「ケーキ。好きなんでしょ?」
『……、…だから聞いてきたってワケ』
尚も眉根を寄せて視線を泳がせるイサゾーに思わずムッとしたあたしは、思わず。
「ちょっと、もっと喜んでよ」
ぐりぐりとその高い鼻が潰れてしまうんじゃないか、というくらい箱を奴へと押し付ける。
『やめなさいよウイッ』と声を荒げるイサゾーだって何のその。と、そのとき。
『コラッ!』
「……あーあ」
『あーあ、じゃないってば。アンタいつもこんなガキみたいなことしてるの?友だち無くすわよ』
――――ドキッ
"友だち無くす"、……か。
「無くして困るような付き合いしてないから」
『……ウイ?』
「ごめんイサゾー、聞かなかったことにして」
思わず顔を背けたあたし。こんな露骨な行動を取れば、イサゾーにだって気を遣わせてしまう。
でも、正直いま晒している表情は、見られたくなかった。
「着いたらまず、それ食べようよ」
『……アンタも食べるのね……』
「当たり前じゃん。そのために二つ買ってきたんだし」
イサゾーの家に向かう道中。長身のイサゾーの隻手に握られるのは、ケーキの箱の柄の部分。
それをチラリと一瞥してから、今日も抜群のアレンジの施されたふわふわのハニーブラウンのヘアーを見ていると。
『なによ。ジっと見たりして』
「……んーん、何でもない」
『変なの』
あたしはイサゾーのこと「も」なにも知らないよな、って。
少しだけ寂しさを覚えた。