その視界を彩るもの
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「お邪魔しまーす」
『はいはい』
「ちょっと、なにその棒読み」
『ボサッと突っ立ってるからよ。邪魔だから早く入りなさいって』
辿りついたボロアパート。ピタリと足を止めて無人のそこに挨拶をしたあたしを、今にもゲシゲシと踏み付け始めそうなイサゾー。
思わず転がり込むように中へと身を投じたあたし。と、あくまでマイペースを貫き玄関に施錠するそいつ。
思わずムッと眉根を寄せて文句のひとつでも言ってやろうと思ったけれど、それよりもまず先に鼻に付いた異臭に意識の全てを奪われた。
「―――ちょ、なにこの臭い……!」
無意識の内に鼻を全て両手で覆い、真後ろに居るであろうイサゾーを振り向く。
すると奴は同じく怪訝さ剥き出しの表情で、全く以てあたしと同じポーズを取っていた。
『ホント臭い。信じらんない』
「信じられないのはイサゾーだよ!何をどうしたらこうなるワケ!?」
『わかんないわよそんなの。ちょっとアンタ、原因究明するわよ。早くしないとケーキが台無しじゃないの』
「(コイツ自分の立場わかってんのか)」
白目をむき思い切り舌打ちをこぼしたい心情である。
しかしながらケーキに関することはあたしも賛同するので、大人しく文句を呑みこんだ。
尚も鼻を押さえ狭い部屋を歩き始めたイサゾーに倣い、慌ててその背を追うのだった。
「イサゾー」
『なによ』
声だけで名前を呼び、尚も視線を寄越そうとしないあたしを不審に思ったのだろう。
浴室を見てきたらしいイサゾーが此方に近付いてくる様子を横目に認め、再度正面へと向き直ったあたしは又もや大きく眉根を寄せる。