その視界を彩るもの
「これじゃない?原因……ちょっと嗅いでみなよ」
『はぁ?いつもと変わらな―――…って、クッサ!!』
「ほら見ろ」
『何様なのよアンタ』
ジロリと射抜かんばかりの視線でイサゾーがあたしを見下ろすものだから、思わず睨み返してしまう。
場所は(一応)寝室とは扉で隔たれたキッチン。そして真正面にはシンク、排水口。
原因究明のためにも、出掛かった文句を呑みこんで自らを落ち着ける。
大人になれあたし。ケーキが台無しになったら駄目じゃないか。
「………、イサゾー昨日なに食べたの」
『昨日?特に変わったもの食べてないと思うけど』
「じゃあ聞くけど。最後に排水口のネット換えたのっていつ?」
『……、…ネット……』
暫くの間、思案に暮れるように眸を伏せたイサゾー。
こんな状況で思うのもアレかもしれないけれど、やっぱイケメンだよなあ、なんて。
「とりあえずケーキは冷蔵庫に避難させておくから」
そんな奴を見ていると何やらそわそわと落ち着かなくて。
まあ原因は十中八九、排水口で腐乱した生ゴミだろうけれど。尤もらしい原因をそれに宛てただけで、本当は真剣な面持ちをする奴から視線を外す口実をつくりたかっただけなのかもしれない。
あたしは本当に、臆病だ。
『ウイー』
「なに」
『悪いわね』
「……そう思ってるなら手伝ってよ」
真横で爛々と瞳を輝かせてあたしの手元を見つめるイサゾー相手に、隠すことなく舌打ちをこぼす。
そんな中でもあたしの手元を見つめる奴の視線が外れることはなくて。遣り辛いこと、この上ない。