その視界を彩るもの





イサゾーって変なやつ。今まで排水口を換えたことが無いってこと?ひとり暮らしで?

聞きたいのは山々だったけれど、余りの悪臭にやたらと口を開くことは憚られた。

できれば呼吸を止めていたいほど。



「……出てきた」

『!! くっさい……』

「ちょっと待て、逃げるなイサゾー」

『あああアンタ!その手をあたしのほうに向けるのだけはヤメてちょうだい!』

「………」





わたわたと慌てふためくイサゾーを白けた眼でしかと見つめた。

予め準備しておいた水色の真新しいネットをむんずと掴み、直ぐに腐乱した物体Xと取り換える。

そして例のブツをキツく縛り、水切りをしてビニール袋で密封。ちょっと不安だったから二重にした。









「………はぁ………」



死ぬかと思った。家でもたまに換えることはあったけれど、こんなにも臭い排水口と対面したのは初めてだったから。

執拗なまでにハンドソープで汚れを落とし、タオルで水気をおとして振り返る。すると。










「………」

『あ、ウイ!先にいただいてるわ、ありがとう美味しいわねコレ』

「……、イーサーゾー」

『ちょっと待って、待ちなさいよ!そんな恐いカオしてどうしたのよ、アンタその長い髪振り乱してオーディション受ければ貞子役も勝ち取れるんじゃないの?』

「そういう問題じゃないよ」

『じゃあ何よ』







既にフォークを含んだ口許。こてんと首を傾げてあたしに視線を向かわせるイサゾーを一瞥したあたしは、中央に置かれた小さめのテーブルに腰をおろす。

真向かいでちゃっかりとケーキを皿に移し食べ始めているイサゾー。

本当は奮闘しているあたしを尻目にケーキを食べていることにムカッときたのだけれど、目の前に自然に差し出された皿を見てすぐに目を丸くした。







< 40 / 309 >

この作品をシェア

pagetop