その視界を彩るもの
イサゾーって変なやつ。今まで排水口を換えたことが無いってこと?ひとり暮らしで?
聞きたいのは山々だったけれど、余りの悪臭にやたらと口を開くことは憚られた。
できれば呼吸を止めていたいほど。
「……出てきた」
『!! くっさい……』
「ちょっと待て、逃げるなイサゾー」
『あああアンタ!その手をあたしのほうに向けるのだけはヤメてちょうだい!』
「………」
わたわたと慌てふためくイサゾーを白けた眼でしかと見つめた。
予め準備しておいた水色の真新しいネットをむんずと掴み、直ぐに腐乱した物体Xと取り換える。
そして例のブツをキツく縛り、水切りをしてビニール袋で密封。ちょっと不安だったから二重にした。
「………はぁ………」
死ぬかと思った。家でもたまに換えることはあったけれど、こんなにも臭い排水口と対面したのは初めてだったから。
執拗なまでにハンドソープで汚れを落とし、タオルで水気をおとして振り返る。すると。
「………」
『あ、ウイ!先にいただいてるわ、ありがとう美味しいわねコレ』
「……、イーサーゾー」
『ちょっと待って、待ちなさいよ!そんな恐いカオしてどうしたのよ、アンタその長い髪振り乱してオーディション受ければ貞子役も勝ち取れるんじゃないの?』
「そういう問題じゃないよ」
『じゃあ何よ』
既にフォークを含んだ口許。こてんと首を傾げてあたしに視線を向かわせるイサゾーを一瞥したあたしは、中央に置かれた小さめのテーブルに腰をおろす。
真向かいでちゃっかりとケーキを皿に移し食べ始めているイサゾー。
本当は奮闘しているあたしを尻目にケーキを食べていることにムカッときたのだけれど、目の前に自然に差し出された皿を見てすぐに目を丸くした。