その視界を彩るもの
――――所変わって原宿、午前10時
「(ねむ……)」
ふああ、と欠伸を噛み殺しながら改札を通り抜ける。
視線を泳がせる限り、一面が人の波に覆われていて。
最後まで悩んだけれど、恐らく面倒なことは避ける節のあるアカネたちは渋谷から動かない。
そう遠くない位置にあるのは違いないけれど、まあ見付かったら見付かったで別にいいかな、なんて。
言うなれば、あたしは開き直った。
ふわっとコテで巻いたハニーブラウンの髪はハーフアップ。
トップスはかぎ編みのポンチョ型ニット。
秋を意識してカーキ色のボトムスをチョイス。
足元はお気に入りのブーティ。
できればタイツはまだ履きたくなかったから、少し寒かったけれど生足で。
取り敢えず今日は一人で楽しくウインドウショッピング。
良いのがあったら、買うかもしれないけれど。
「(オーケーオーケー。計画ばっちり)」
ルージュの乗せた唇が弧を描くのを添えた指先で隠しながら、鞄を肩に掛け直して足早に進み始める。
歩くたびに、カツ、カツ、カツ。
快活な音が耳朶を撫ぜるのが心地好くて、更に更にと脚が進む。
どれくらい歩いただろう。
危惧していたアカネたちとの遭遇も今のところ無いし、これ以上ないくらい順調に進んでいた。
いくつかの店を巡り、比較的人通りの穏やかな場所に出たときのこと。
「ちょっとアレ、"柳"クンじゃない!?」
「うっそー!!」
「うっわマジじゃん。イケメン半端ないんですけどー!」
意図せずとも耳に入り込んできた言葉の数々。
ここに来て初めて、あたしの脚にストップがかかった。