その視界を彩るもの
「(やなぎ……?)」
そう言えば、イサゾーの名字も確か"柳"だった気がする。
言うほど珍しい姓では無いと思うけれど、さすがにこう何度も遭遇すれば首を傾げたくもなる訳で。
人通りは駅に比べると疎ら。
しかしながら恐らくファンであろう女の子たちが遠巻きに見詰める先には、きっとその"柳くん"とやらが居る筈で。
どうしてこうも、嫌な予感を募らせてしまうのか。
直ぐに振り向いて、それで。嗚呼やっぱり人違いだったって、安堵すれば良いのに。
「………イサゾー……」
振り向いて始めて後悔する。
あたしの嫌な予感というのは、何故か当たりやすい。
ちょうど撮影を終えた頃合だったんだろう、カメラマンらしき男性と談笑する渦中の"柳くん"。
それは正しく、イサゾー本人に他ならなかった。