その視界を彩るもの
『………今日だって、別に撮影のつもりじゃなかったのよ』
「じゃあなんで?」
『呼び出し。まあちょうど時間あったしOKしたんだけど、アンタに見付かるならやめておけば良かった』
「あたし?」
『そう。アンタ』
眉根を寄せてあたしを睨むイサゾー。
なんでそんな表情を向けられているのか分からない。あたし、何かしたっけ?
尚もキョトンとイサゾーを見つめていれば、そんな此方の心情に気付くものがあったらしく。
『アンタはもう他のダチと変わんないのよ、ぶっちゃけ。だから、恥ずかしいじゃない。ばれたら』
そう吐き捨てたイサゾーは、いつの間にか運ばれていたらしいカフェオレのグラスに口をつける。
その行動すべてが様になっていて、雑誌の中から飛び出してきたみたいで。
逢った当初から感じていた抜群のセンスは、そういう所以だったんだ。
グラスを傾けるイサゾーを凝視するあたし。
その頬が赤く染まっていることを認めて、本当に恥ずかしいんだと納得。
「………へー」
『なにその、薄気味悪い笑顔』
「ヒッドいなあ」
そう言いつつもゆるゆると持ち上がる頬を止めることができない。
だって、嬉しかった。
アカネたちとはきっとどれだけ一緒に居ても「本当」の意味でのダチには、なれないから。
「あたし、イサゾー好きだなあ」
『………は?』
「いやいや、友だちとしてって意味だから。誤解しないで、マジで」
へらへらと破顔して首を振るあたしは、知る由もなかったことだけれど。
「好きだなあ」と言葉を向けたあとのイサゾーの表情。
それは凄く、さっき『恥ずかしいじゃない』と口にしたときの何倍も。
それこそ比ではないくらい、赤く染まっていたそうだ。