その視界を彩るもの






* * *



カランカラン、陳腐なベルに追い出されたイサゾーとあたし。

カフェオレも飲み終えてしまったから、長居をする理由を失ってしまい店をあとにした。




「イサゾー早いってー、待ってよ」

『アンタがタラタラ歩いてるからじゃない』

「脚の長さが違うんだから、仕方ないじゃん」





そんなこと言っちゃって。

文句を垂れながらも足を止めてくれるあたり、優しいんだよなあ。


思わずヘラヘラと締まりのない笑みでイサゾーの元まで駆け寄れば、極限まで眉根を寄せた奴があたしを待ち構えていて。

気付けばあたしたちの真横に沿う形でショーウインドウが並んでいた。



そのガラス面に映る澄み渡った青空。

一人の筈だったのに気合いを入れて粧し込んでいるあたし。と、今し方撮影を終えたらしい「読者モデル」のイサゾー。








「………プッ、」

『はあー?アンタなに笑って――…って、ちょっと!』

「行こうイサゾー!買い物付き合ってー」

『なんでアタシがそんな面倒に巻き込まれなきゃいけないのよ』

「れっつらごー、はいドーン!」

『……最早聞いてないし……』









緩みっぱなしの口許を隠すつもりすらないから、きっとイサゾーにもばれてる。

こんなに楽しいのは初めてだと思った。

「友だち」と居て面白くて仕方がないのも、初めてだった。


呆れかえったイサゾーの腕を引きながら、風に掬われるハーフアップのハニーブラウン。

狙ったようにお揃いのイサゾーとあたしのヘアカラー。






包み込むような暖かさをもたらす快晴の空を見上げながら、堪え切れない笑みを空気に乗せる。

嗚呼あたし、イサゾーと出逢えて良かったなあ、って。









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