その視界を彩るもの
今から遡ること数時間。いつも通りに登校し日々繰り返す喧騒に身を置いていると、次々に教室の扉を潜り始めたのは所謂「いつめん」メンバー。
向けられた言葉に至極適当に返し、あたしは最早恒例と化している行動をしていた。
お気に入りの雑誌をパサリと開き、机上に大判のミラーを設置。
少しだけ違うのは、その開かれた雑誌のちょうど後半に三角の折り目を付けているということ。
そこにポーズを決めて載っているのは、他ならぬイサゾーである。
「初ー、今日渋谷行かない?」
「んー……」
「行こうよってばぁー。最近付き合い悪いじゃんね?超悲しいんだからぁ」
ツケマを三枚重ねてバサバサと瞬きをしてみせたのは、四人の中で一番身長の低いユカリで。
アカネに負けないくらい濃いメイクを好む彼女。
バイオレットのカラコンの奥であたしを見つめる瞳孔を暫し見返すものの。
「ごめん。やめとく」
「えー!なんでさぁ!身長近いから出来れば初と行きたかったのにぃー」
「なにそれ、関係ないっしょ」
「大アリだってー」
なんで、と問われたからと言って返答する気は更々ない。
ここ最近のあたし。取り敢えず予定がないときはイサゾーにメッセを送り、奴も暇だと言ったらイサゾーんちに直行。
今までなら曲がりなりにも「友だち」やってるんだから、「いつめん」からの誘いには出来るだけ乗るようにはしていた訳だけれど。
それは他に優先する予定が何も無かったからで。
「イサゾー」という彼女たちを凌ぐダチと出逢ってしまった今、嫌々ながら誘いに乗らなくても良くなったのだ。