その視界を彩るもの
――――数時間後、昼休み
「初」
「ん、なに?」
四時間目の授業を終え、母親に持たされた弁当を取りだそうとしていたサナカ。
視線だけで掬うように声の主を捉えると、見上げるあたしを一瞥した彼女―――アカネは微笑みを浮かべると。
「購買ついてきてくんない?」
「……、あたし今日弁当持ってきちゃったんだけど。ユカリたちは?」
「あー、なんか用事あるらしくて。今日の昼は別で食べるって」
「そうなんだ」
なんだ、珍しい。それなら朝言ってくれたら良かったのに。
そんなことを思いながら思い出すユカリの表情。それは、首を傾げたくなるほど苦渋に満ちたあの、一瞬のものだったから。
「(……結局ユカリ、何だったんだろ)」
「初ー、行こ」
「ああうん、はいよ」
「それ口癖だよね初って。ウケる」
「真顔でウケるって言われても……」
「あはは。ごめんごめーん」
ころころと表情を変えるアカネと肩を並べ、一階にある購買を目指し歩を進め始める。
昼休み独特の、楽しげな雰囲気に包まれた校内。
「アカネ」という、一般的な生徒から見れば一目置かざるを得ない存在と一緒に居ることで、あたしたちが進む先には障害物がまるで無い。
言うなれば、生徒たちがあたしたち二人を避けるように廊下を進むのだ。
「………」
腕を組んで堂々たる足取りで廊下を闊歩していくアカネ。
ルージュの乗った唇が柔に歪められていることを認め、この状況を好んでいることは瞭然だった。