その視界を彩るもの
「――――……アカネ今、なんて言った?」
驚くほどあたしの胸中は穏やかだった。
今し方彼女から向けられた台詞が、信じられないくらい猛スピードで自らの脳を侵食してゆく。
にも関わらず、どうして自分がこんなにも冷静で居られるのか。皆目見当もつかなくて。
腕を組んで妖艶な笑みを湛え続ける彼女を見上げる。そして、見下ろされる。
嗚呼、そうか。もしかしてあたし、
「だーからぁ。柳くんのこと好きになっちゃったの、あたし」
―――きっとまだ、現実として受け入れられていないんだ。
恐ろしいほどの沈黙があたしたちを支配していく。
そんな空間をぶち破ったのは、例に洩れずアカネ自身だった。
「そんで、この間偶然なんだけど初が柳くんと居るの見ちゃったんだよねぇ。だからさ」
「………しないよ」
「え?」
こういう風に彼女が畳み掛ける姿を見るのは、実はこれが初めてではない。
まさかあたし自身がその、相手になるなんて思いもしなかったけれど。
別にあたしはイサゾーに対して恋心を抱いている訳じゃない。
それは分かってる。だからきっと、これから口にする言葉は「嘘」に分類されるのだと思う。
アカネがこれから音にしようとする台詞の内容。
それを予測するなんて至極容易いことだ。だって、同じ姿をずっとこの目で見てきたから。
「協力しないから。だってあたし、イサゾーと付き合ってる」
でも、アカネにイサゾーは勿体ないことくらい判る。
ぶっちゃけ外見しかその眸に映さないアカネと交際させるくらいなら、嘘でも何でもあたしがイサゾーを護りたいと思った。