その視界を彩るもの
タオルが受け止めきれなかった水滴が、ぽたりぽたりと落ちていく。
視線をおとしている所為で狭まった視界。
その限られた中でも、キッチンに向かおうとしていたイサゾーが再びあたしの元に戻ってきたことを知る。
――――と、
「う、わッ」
『いいから拭く!話はそれから』
「だって……あたし嘘吐いちゃったし」
懺悔だろうか。タイムスリップなんて非科学的なことができる訳もないし、単なるあたしのエゴだってことも理解してはいるつもり。
あのときは最善に思えたあの行動がもしもイサゾーにとって迷惑なものだったら。
今考えてみると、あのアカネがこれを吹聴しない訳が無い。
ガシガシと乱雑な手付きであたしの髪の水分をタオルに移していくイサゾー。
ぽつり、吐き出したあたしの言葉を最後に、この部屋を静かすぎるほどの沈黙が包んだ。
『それは多分アタシじゃなくて、ウイ。アンタに言えたことね』
「………え?」
幾ばくかの時間を隔てておとされた台詞は、全く以てあたしの予想とは合致しないもので。
思わず驚きに目を見開き、眼前に居るであろうイサゾーを勢いよく見上げる。
しかしながら、その瞬間。
『―――…プッ、』
「は?」
あたしの表情をきちんとその眸に映す前に思わず、といった具合に吹き出したイサゾー。
それを見たあたしの眉間には複数の皺が刻まれる。至極当然のことだ。
そのままゲラゲラと腹を抱えて笑い出した奴を見るに付け、比例してあたしの腸が煮えくり返っていく。
だって、意味がわからない。