その視界を彩るもの
絶望って、こういうことなのか、って。
為す術のない現実。
段々と遠ざかっていくゲームセンター。
必死に抵抗はしていても、男の力にあたし一人で太刀打ちできる筈もなくて。
涙が膜を張ってふくれあがる。
視界がだんだん滲んできて、更にぼやけてもう訳が分からなくなる。
涙が弾け、目尻に溜まったそれが頬に一筋道をつくったとき。
既にあたしは男たちの話していた「目的」である路地の直ぐ近くまで連れて来られていた。
もう無理だって。
半ば胸中でも諦めが勝って。
―――……そんな状態だったから、自分の鞄が何時どこに落ちたのかなんて知る筈もなくて。
『ちょっと職質、受けて貰いたいんだけど』
――――ガンッ!!!
耳を劈くような音。
凄い力でドラム缶でも蹴ったかのようなそれが、鼓膜を揺らすのと同時に。
「柳さんっ!見付かりまし――」
『アタリだ。他の連中にも知らせとけ』
「あ、は、はい!でも柳さんは、」
『いいから。余裕だって』
聞き慣れた筈の声が、
優しくて中性的で、
いつも自分のことは"アタシ"って言って、
あたしのことは"アンタ"って言って、
明るくておどけた調子にすら感じていたその、声音が。
『"俺"のダチに手ぇ出したんだ。他の誰にも譲るワケにいかねぇだろ』
今は恐いくらいの重低音で、目の前の男たちを脅しに掛かっている。
信じられない。
でも、信じたい。
頭と心も全部ごっちゃごちゃで、自分が何考えてんのかも分かんなくて、でも。
―――…でも、あたしがイサゾーの声を聞き間違える訳がないんだよ。