その視界を彩るもの
「はァ?つーかてめぇ何なんだよ?関係ねぇ奴はすっこんでろっつーの」
「ま、待て。あいつって……」
「なにビビってんだよ。俺ら族だぞ?んな情けねぇ面してんじゃねぇ、よッ」
「おい、―――!」
『ホント馬鹿な奴ら』
何が起こったのか、分からなかった。
だって余りに一瞬で。
「族」だって。そう豪語する男が素早く地を蹴り、真直ぐに制服姿のイサゾーに向かっていく。
恐くて身体が勝手に戦慄した。
イサゾーが無事でいられるなんて、失礼かもだけど微塵も思っていなかったから。
体格から見てもどちらに分があるかは瞭然で。
最悪の結果を瞼の裏に描きながら、ぎゅっと強く目を瞑った。
――――の、だけれど。
「ぐ、ッ………!」
『動き遅すぎ。それでよく《族》だって偉ぶれるな』
意図せずとも耳朶に入り込んだ台詞。
思わずハッとして目を見開いた。そして待ち構えるかのように網膜に流れ込んできた光景に、音もなく息を呑みこむ。
それは全く、予想していなかった結末。
鳩尾あたりを両手で押さえ込みながら極限まで目をカッ開いたガタイのいい男は、そのまま地面に崩れ落ちていく。
男が視界からおちたことで、背後に佇むイサゾーが口角を上げて「それ」を見下ろしているのが分かった。
その表情が余りに冷酷なものに思えて、無意識の内に肌が粟立つ。
『……で、次はどっち』
細められた切れ長の眸を一度伏せたイサゾー。
日の光に照らされて更に明るさの増したハニーブラウンの頭髪を隻手で掻き上げ、だるそうな仕草でそう言葉をこぼす。
地に伏せた男は遠目から見ても、既に意識を手放していることが容易に判った。