その視界を彩るもの
「だ、から言っただろ……!コイツは《天》の4番だって!!」
「てんのよんばん?何だよソレ」
「うるせぇな、俺は知らねぇからな。あとはてめぇが何とか――」
『ごちゃごちゃ言ってるとこ悪いけどさ』
残りの二人の前に音もなく現れたイサゾー。
いきなり目の前に移動したイサゾーを見て少なからず驚いたらしい二人は、目を見開くと同時に一歩後退する。
片方の、「何だよソレ」と尋ねたほうの男に捕まっているあたしも同じく引きずられた。
それを見たイサゾーの眸が鋭い光を帯びる。
一度あたしもその視界に映ったけれど、正直実感は全然なくて。
だって、今でもこの目の前に居るのがあの「イサゾー」なのか。それすらも信じられていない。
どこか現実離れした感覚をおぼえながら、それでも先ほどの絶望感は既に身を潜め始めていた。
『二人とも無事に帰してやるつもりねぇから。それと』
「―――は、……ッ」
目の色を変えて「俺は知らねぇ」と逃げることに徹していた男を、イサゾーの拳が襲う。
先刻「天の4番」がどうのこうの口にしていた奴だ。
―――パシリ、腕を掴まれて今までとは違う方向に引っ張られて。
抗うこともなくそれに従えば、鼻先を掠める覚えのあるフレグランスに確信を突きつけられる。
今の今まであたしを拘束していた男は最早引きとめることもせず、「次は自分の番」だということに戦慄している様子だった。
あたしの肩を自分へと引き寄せるイサゾー。
最近ではすっかり慣れてしまったその香りに胸が詰まって、思わず泣きそうになる。
『つい最近、3番になったから。もう"4"じゃないんだよね』
後退りを繰り返していた男の呻きが、界隈に木霊した。