その視界を彩るもの





* * *




『ねぇ、ちょっと』

「………」

『ウイってば』




極力視線は上げないようにして、目の前のイサゾーから微かな逃亡。

あの後のこと。泣き顔を見られたくなくて、変なところで意固地なあたしは「ありがと」と告げると同時に直ぐに帰路に就こうとした。


けれど、事がコトだけにそんなあたしをイサゾーが簡単に解放してくれる筈もなく。




『まず落ち着きましょう』と口にしたイサゾーに半ば強引に引きずられる形で、近くのファミレスの扉を潜ったのだ。

気付けば、もう夜の帳が下りていて。

考えてみればそれもその筈。だって、ユカリたちとゲーセンに行ったのは放課後だったから。








『なに食べる?特別に今日はアタシの奢りで、』

「いい」

『え?』



眉根を寄せて脚を組み、イサゾーから視線を逸らすあたしは一体何様のつもりなのか。

でも、正直今は誰とも一緒に居たくない。

一人にして欲しかったのに。一人で、ごっちゃごちゃな頭を少しでも整理したかったのに。








「食欲ないから、いい……」






一人にすることを許さない、とでも言うように此処に連れてきたイサゾーに、理不尽な憤怒がわき上がる。

あのとき助けてくれたのは他ならぬイサゾーなのに。

イサゾーが居なかったら、きっとあたしはあいつらにヤられてた。その現実がどうしようもなく恐ろしくて堪らない。






――――けれど、




『ちょっと待ってて。持ち帰りできないかどうか聞いてくるから』

「え、……ちょっ、イサゾー」

『今日はアタシんちでお泊まりね。これ、決定。今の内に家に連絡しときなさい』







柔な微笑みと共にそんな言葉をおとしたイサゾーに、思わず目を丸くした。

あたしの反論なんて始めから受け付けない、とでも言うように。直ぐに背を向けたイサゾーは言葉通りカウンターへと向かっていく。





< 72 / 309 >

この作品をシェア

pagetop