その視界を彩るもの
* * *
『ねぇ、ちょっと』
「………」
『ウイってば』
極力視線は上げないようにして、目の前のイサゾーから微かな逃亡。
あの後のこと。泣き顔を見られたくなくて、変なところで意固地なあたしは「ありがと」と告げると同時に直ぐに帰路に就こうとした。
けれど、事がコトだけにそんなあたしをイサゾーが簡単に解放してくれる筈もなく。
『まず落ち着きましょう』と口にしたイサゾーに半ば強引に引きずられる形で、近くのファミレスの扉を潜ったのだ。
気付けば、もう夜の帳が下りていて。
考えてみればそれもその筈。だって、ユカリたちとゲーセンに行ったのは放課後だったから。
『なに食べる?特別に今日はアタシの奢りで、』
「いい」
『え?』
眉根を寄せて脚を組み、イサゾーから視線を逸らすあたしは一体何様のつもりなのか。
でも、正直今は誰とも一緒に居たくない。
一人にして欲しかったのに。一人で、ごっちゃごちゃな頭を少しでも整理したかったのに。
「食欲ないから、いい……」
一人にすることを許さない、とでも言うように此処に連れてきたイサゾーに、理不尽な憤怒がわき上がる。
あのとき助けてくれたのは他ならぬイサゾーなのに。
イサゾーが居なかったら、きっとあたしはあいつらにヤられてた。その現実がどうしようもなく恐ろしくて堪らない。
――――けれど、
『ちょっと待ってて。持ち帰りできないかどうか聞いてくるから』
「え、……ちょっ、イサゾー」
『今日はアタシんちでお泊まりね。これ、決定。今の内に家に連絡しときなさい』
柔な微笑みと共にそんな言葉をおとしたイサゾーに、思わず目を丸くした。
あたしの反論なんて始めから受け付けない、とでも言うように。直ぐに背を向けたイサゾーは言葉通りカウンターへと向かっていく。