その視界を彩るもの
『ちょッ、アンタどうしたの……!具合悪いの?大丈夫?』
「ちが、だいじょ――」
『まだココでは吐かないでよ、お願いだから!とりあえずトイレまで我慢して!』
反論する暇もないくらい、切羽詰まった様子のイサゾーがあたしの腕を引く。
その反対側の腕に掛けられたビニール袋を視界の端で認め、呆然と「持ち帰りできるのか、ココ」なんて。
思い切り焦燥をその顔に浮かべているイサゾーには悪いけれど、丁度トイレに行きたかったから黙って引かれることにした。
たくさんの犇めき合う感情を、抱えながら。
* * *
『大丈夫?』
「ん……。落ち着いた、かも」
やっぱり口調はおねえでも、トイレは普通に男子トイレを使うらしいイサゾーは店の通路脇で待機してくれていた。
そうだよね。あたしだって、知らない男が女子トイレに居たら驚くよ。
尚も心配そうな面持ちで此方を見下ろすイサゾーを、暫くぶりにしっかり見つめ返せたような気がする。
本当、トイレで一息吐いて良かった。
ユカリとアキホにもとりあえず「無事」だということはメールできたし。……無事、って訳じゃないんだけれど。
『じゃ、アタシんち行こ』
「マジでお泊まりすんの?」
『当たり前じゃない。男に二言は無いって』
「イサゾーって男だったの?」
『……アンタ……』
無事だって。そう言わなきゃあたし自身また悲嘆に暮れそうだったし、それに何より―――
あんなにも心配してくれた「ダチ」にまた心労を増やすのは、違う気がしたから。