その視界を彩るもの
―――……理解に身体が追い付かない。
もしあのときイサゾーが来てくれなかったら。
もし、少しでも時間がずれていたら。
もしも……あのまま最悪の事態を迎えていたら。
温かい湯に包まれる身体を、無意識の内に震える指先で抱き締める。
あの舐めまわすような視線はどんなに時間が経っても忘れることができない。
気持ち悪くて、吐き気がする。
意図せずとも込み上げる涙がシャワーの温水に混じて落下していく。
目元を両手で覆って、深く息を吐き出し嗚咽を押さえ込もうと躍起になった。
人前では泣かない。未遂だったんだから、悲劇のヒロインぶって涙を流す必要なんて無い。
今、感情のコントロールができないのは一人になったから。
シャワーを終えてイサゾーの前に立つときは、微塵も弱さを見せたら駄目。
それが「あたし」の姿で、今までもこれからもずっと変わらないから。
「――――……、しょうもな」
はぁ、と。大きく呼吸を整えてから広げた手のひらに隠れて嘲笑をこぼした。
弱い自分が憎たらしい。イサゾー強かったから、喧嘩の仕方教えてもらおうかな。
聴覚全てを支配するシャワーの水音をどこか遠くに感じながら、部屋に戻ったらもう一度、ちゃんと。
おどけた体《てい》でも何でもいいから、ちゃんと御礼を言おうと誓った。
イサゾーが居てくれて本当に良かった。そう、強く思ったから。