その視界を彩るもの
* * *
「ただいまー。イサゾーシャワーありがと」
『………、大丈夫?』
「だいじょーぶだってー。実際なーんも無かったんだし」
ヘラヘラと締まりのない笑みを浮かべたまま、頭に乗せたタオルで水滴を拭いつつ歩を進める。
不審を前面に押し出したような表情であたしを見上げるイサゾー。そんな奴を見て思わず苦笑。
「ちょっと何、その顔。ぶっさいく」
『アンタに言われたか無いわよ!』
「え!あたしってブス?」
『……マジレスすんなっての……もう、』
「ちょっとー!あたしってブスなの?マジ?」
愕然と目を丸くしたあたしは、敏速に腰を下ろすなりイサゾーの肩をむんずと掴む。
そして間髪を容れずに思い切り前後に揺すった。手加減無しの行動に従って、パサリと頭上からタオルが落ちてしまう。
『あーもう……!ヤメテ!脳みそシェイクされッるぅ』
「だってイサゾーがあたしをブスだって言うから」
『言ってない。言ってないってば』
本気で目を回し始めたイサゾーに免じて、渋々ながら肩から手を離すあたし。
尚も口を尖らせるあたしに対し、奴はギン!と鋭すぎる眼光で射竦める。えー、なんで。
「じゃあ何、本当は何なわけ」
『………なにが?』
「イサゾーの中で、あたしはこっからここまでで、どのへんの容姿?」
ポタリ、視界の隅で水滴が落下した。
それを当のあたし以上に目聡く見付けたらしいイサゾー。吸い込まれるように床に伏していたタオルを即座に拾い上げ、やや乱雑な手付きであたしの髪に絡ませていく。
頭皮に直に残っていた水分が奴の手中にあるタオルへと移ろってゆく様を何気無しに感じる。
そんな中でも、自らの双手で指し示した図はそのままで。左手は折っている膝あたりまで引き下げ、反対に右腕はあたしの視線の位置まで持ち上げる。