その視界を彩るもの
イサゾーがタオルであたしの髪の毛を拭いてくれていることから、奴との距離は至極近い。
一見ハーフにも見える顔立ち。毎日のように遊んでいると言っても、さすがにこんなに顔を近付けることは無いから新鮮だったのかと言われれば否定できない。
そんな理由もあって、まじまじとイサゾーを見つめ上げていた。沈黙に包まれていることにすら、暫く気付かなかった。
そのくらい、見目麗しい。曲がりなりにも「男」であるイサゾー相手にそんな所感を抱くのは可笑しいのかもしれないけれど、正直「綺麗」という言葉が一番しっくりくる。
"この間で、どのくらい"と言って前に出した両腕ですら、もう少し伸ばせばイサゾーの身体に触れてしまう。
そのくらい危うい距離感。……まあ、当のあたしは「危うい」なんて此れっぽっちも思っていなかったのだけれど。
『……イ、ちょっと、ウイってば!』
「、なに?」
『どうかしたの?心ここに在らず、って感じだったけど。アンタ』
「んー……」
わ、イサゾー睫毛めっちゃ長いじゃん。
瞬きする度にバサバサと音が出そうなほど魅了するそれを目の当たりにして、今度こそ羨ましさが募る。くっそー、男のくせにズルイなあ。あれ、でもイサゾーって男?男だよね、うん。
「うん、うん。そうだよね」
『………気持ち悪いからちゃんと声に出して言いなさいよ、前後含めて』
「きッ気持ち悪いってヒドいなあ!まだ"キモい"って言われたほうが救われる気がするよ」
『………』
「そんな残念そうな視線送るのやめてよね、もう。て言うか、まだ答えもらってないし!」
自分自身がこれ見よがしに取っていたポーズのお陰で、再度そのことを思い出す。
いっけない。このままだったら絶対に忘れてた。それで、恐らく一生失念パターンだった。
思い切り顔を上げたことで、一抹の危さを醸し出していた距離が更に詰められる。