その視界を彩るもの






* * *




そうだよ。忘れてたじゃん、完全に失念コースだったじゃん。



「イサゾー」





眼前で同じ髪色、同じ(ただし色違いの)スウェット、更には同じくファミレスのハンバーグを頬張っている奴に対し声音を向かわせる。

するとチラリ、持ち上げられた視線。黒フレーム眼鏡の奥に佇むふたつの眸が、まるで続きを促すようにあたしを見据えた。


うーん、眼鏡も似合うなんてずるいよね、さすがに。

いつもはコンタクトだって言うけどさぁ。同じことしてる人が他に何人居ても、恐らくイサゾーほど全てを魅力として取り込んでしまうヒトは居ないと思う。







「さっきの話の続き、まだ聞いてない」

『……そうねぇ…。 あ。アンタどうそれ、美味しい?』

「美味しいよ!美味しいけど、また話逸らそうとしないで」

『チッ』

「確信犯かおまえ」








隠そうともせずに舌打ちをかましたイサゾー。やっぱりか、やっぱり話題を掏り替えようとしていたのかお前は。

ファミレスで買ってきたご飯をレンジで温めて戻ってきたイサゾーは何気なしにテレビを点けた。

そのハコの中で放送されているドラマのキャストたちの台詞が、耳朶を擽る。





「……そんなに言いにくいことなの?」









あ、ハンバーグ本当に美味しいや。

ほくほくと湯気を立たせるそれにイサゾーから借りた箸で切り込みを入れ、「ふー」冷ましながら口許へと運ぶ。

その動作の流れに乗っかるようにチラリ、真向かいのイサゾーへと視線を向けると。






『……、あたしは別に何とも思わないんだけど。まさかアンタがそんなにも無知だと思わなかったから』

「む。なにそれ、貶してんの?」

『違うってば』








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