その視界を彩るもの
眉根を寄せてガンを付ける形になったあたしに倣って、同じく眉間に皺を刻んだイサゾー。
傍から見ればまるで啀み合っているみたいだ。実際は違うけれど。
うーん、あたしが疑問を示したくて怪訝さを向けたのに対して、イサゾーは「は?」とでも言いたいのかなあ。
「だって普通"無知"なんて言われたらイラッてくるじゃん。あたし、別に頭悪くないと思うよ。平均点ラインだよ」
『あー……、ごめん、そういう意味で言ったんじゃないのよ』
「じゃあ何さ」
『そうねぇ』
あ、ほら。また「そうねぇ」だって。
出逢ってから随分経つし、一緒に過ごす内にイサゾーのことは少しは解ったつもり。
こいつは寡黙な訳でもないし、逆にお喋りな人種だと思う。そんなに言い辛いことなのかな。
そんなことを思いながら最後の一切れを口に運び、咀嚼していれば。
『百聞は一見に如かず、って言うものね』
漸く何かの結論に達したらしいイサゾー。
その隻手がポケットの中を弄り始めるのを認め、あたしは水を飲んでハンバーグを胃におとす。
「なになに。写メ?」
『んー……ちょっと待って』
「イサゾー早くぅ」
『ウッザ、急かさないでよ。暇ならそこらで逆立ちでもしときなさいよ』
「そんなことしたらハンバーグちゃんが出てきちゃうよ」
思いの外目的の何かを探すのに苦戦しているらしく、奴は言葉も無くスマホ画面を見つめている。
何かあると思って最後の一口まで食べちゃったから、もうご飯は平らげてしまった。
「ごちそうさまでしたー」形だけでも手を合わせてそう述べて、空の容器と箸、コップを流しへと持っていく。