その視界を彩るもの
――――不思議だった。
出逢ってから今の今まで、イサゾーと二人で居てシリアスの欠片すら感じたことが無かったから。
それにも関わらず、今この部屋を包むのは文字通りの静寂で。
手を伸ばせば触れられる距離。そんなにも近くにイサゾーが居るのに、奴は二の句を継ごうとはしない。
それがまるで、あたしの出方を窺っているように思えて。
間違いなく数分前までは気兼ねなしの空気に身を置いていた筈なのに、それがまるで嘘だったかのように思えてきてしまう。
心が近付いてきたと思った相手に「試される」ことが、こんなにも悲しくて辛いことだったなんて知らなかった。
イサゾーはあたしに、どんな答えを望んでいるのだろう。
「やだよ」
部屋に響いたあたしの声音は、自分でもそう思えるくらい凛としたものだった。
弾けるように息を呑んだイサゾー。眉根を寄せた表情を見て、あたしの言いたいことを必死に噛み砕こうとしていると判る。
なんで声に出して訊いてくれないの。
言ってくれればいいじゃん。いつものイサゾーなら、あたしに遠慮なんてしないでしょ?
「絶対に嫌だから。暴走族がなに。そんなんで、あたしがイサゾーから離れると思ったら大間違いなんだから」
力強い瞳でイサゾーの目を見つめ上げる。
そんなあたしを視界に映すイサゾーの表情は、驚き一色とまでは呼べないにしても意表を突くことは出来たみたいで。
暫くは、言葉を交えず視線を交差させるのみの時間が続いた。
だけれど、そんな応酬もイサゾーの意外な姿によって終わりを迎えることになる。
あたしは文字通り目を丸くした。