その視界を彩るもの
『………ウイ』
「え!イ、イイイイイサゾーどうしたの……!」
ポロリ、眼鏡の奥に在る瞳からこぼれ落ちた透明な雫。
それを目の当たりにしたあたしは思わずギョッと目を見開く。だって、まさか泣くなんて思わなかったから。
一度崩壊してしまえば、後から後から溢れ出してくる涙は際限なく奴の頬を濡らしていく。
イサゾー自身がそれを拭うつもりもないから、あれよあれよという間にその端整な顔は涙に染められてしまって。
「ちょっ、イサゾーまず拭こうよ!ティッシュどこ!?」
『いい、のよ……。ちょっと聞いて』
「良くないよ!鼻水きたない!」
『………』
「あ、ティッシュあった」
漸く見付けた箱をイサゾーに差し出せば、何やら奴はジトっとした視線をあたしに向けていて。
小首を傾げてそれを見つめ返すものの、観念したように息を吐き出したイサゾーは徐にティッシュへと手を伸ばした。
「落ち着いた?」
『………ん』
コトリ、木製の丸テーブルの上に掛けていた黒フレームの眼鏡を置いたイサゾー。
頬を濡らしていた涙がティッシュに移されたのを確認して、尚も充血したその眸を見つめた。
真直ぐな視線を向けるあたしからまるで逃れるように目を伏せたそいつ。
人前って言うか、あたしの前で泣いてしまったことを恥ずかしく思っているのかもしれない。
別にそんなの、気にしないのに。