その視界を彩るもの
あたしから問うのは違う気がして、イサゾーから何かを口にしてくれるのを待つ。
静かになった此方の様子を見るに付けてそんな思惑を汲んでくれたらしく、僅かな静寂を挿んだのちにイサゾーは口を開いた。
『アンタって本当、いっつも突拍子もない行動するんだもの』
「………、もしかして貶して――」
『ないわよ。むしろ逆に褒めてんの』
はぁ、と溜め息を空気に溶かしたそいつをジっと見据える。
褒めてる?そうなの?馬鹿みたいに首を傾げるあたしを見て、再度ゆっくりと笑みを浮かべたイサゾーはと言うと。
『だってまさか、逆ギレしながら《離れない宣言》されるなんて思わなかったし。まあ、アンタに限ってミーハーに成り下がるとは思わなかったけど』
「……ミーハー……?」
『暴走族なんて周りが呼んでるだけに過ぎないんだけどね。いるのよ、そういう悪い人間にたかってくる輩がたくさん』
困ったように眉尻を下げたイサゾーは、徐に立ち上がると壁に掛けてある制服のポケットに隻手を突っ込む。
そして『ちょっと一服してきていい?』と一言。
別に気にしないから、「ここで吸っていいよ」と返答した。父親だってバリバリの喫煙者だし。
ライターの火を翳し、深く息を吸い込んだイサゾーは再度腰を下ろす。
『そうじゃなくても、アンタと今まで通りには絶対いかないだろうなとは思ってたから』
「……なんで?」
『嫌じゃない、知り合いに暴走族なんてやってる人間がいるなんて。アタシだったらイヤよ』
「だって、イサゾーが当の本人なんでしょ」
『………まぁ、そうなんだけど』
此方の視界に映り込む横顔。
吐き出した白濁の息が透明だった空気を染めていく様を呆然と見つめていた。