その視界を彩るもの
『それで、さっきアタシが言った《天龍》っていうのは暴走族の名前みたいなモノよ。それを周りが勝手に略し始めて《天の何番》だか何だか言いだしたってワケ』
「……ああ、そうだったんだ」
『こっちにしてみたらいい迷惑よ。内輪で遊び感覚でやったケンカが知らない内に外部にまで洩れてるんだもの』
「でもイサゾー自分で《3番になった》って言ってたじゃん」
『やだ、なんでそんなこと覚えてんの』
呆れたように視線を流してくるイサゾー。流し目のそれが余りに妖艶で一瞬ドキリと心臓が跳ねた。
本当、こいつって動作が一々絵になるから困るなあ。そんなことを思いながら視線を返していれば。
『それはまあ……いま《4番》の男と馬が合わないっていうか。あいつより下だと思われるのは嫌だっただけよ』
「さっきの写真に映ってた人?」
『まっさか。犬猿の仲なのよ?写真なんて一緒に撮るワケないじゃない』
そう口にするイサゾーは、本当にその《4番》の人に対し良い思い出が無いらしく。
忌々しげに吐き捨てたやつの姿を見て苦笑は込み上げるものの、だからと言ってあたしが何を言える筈もない。第一、見たことが無いのだから。
―――……って、あれ。そこでふと脳裏に浮かんだ疑問。
「ねえイサゾー」
『なによ』
「その、……《天龍》?の人たちは、イサゾーが普通の男だと思ってるの?」
我ながら回りくどい言い方だと思う。
でも、なんでか良く分からないけれど「オカマ」とか「オネエ」とか言うとイサゾー怒るし。
あたしなりの配慮の末に行きついた言葉を口にして、やつを見つめたまま首を傾げた。